この記事は1997年8月に取材されたものです。
取材1997年8月
ムーンライト松崎
幻の鉄道建設公団AB線
呼子線
(4)路盤の今後の処遇
今後の路盤の処遇だが、すでに壊してしまっているのを見てしまった以上、開業の可否すら論じる事ができなくなってしまった。しかし何度も言うがもったいない。今年の秋は土佐くろしお鉄道の宿毛線が開業したが、この呼子線は宿毛線よりも採算性がいいのではないのだろうか。電化すれば博多まで1時間40分程度で到達できるだろうし、また下り方向の呼子方面にも七ツ釜や呼子の朝市、壱岐へのフェリーといった観光資源が豊富である。
第3セクターとしての開業を考えなかったのかと唐津市を訪れた折に、担当の方には聞いてみた。開業できない理由を丁寧に説明してくださり、その事自体は誠意があって感じが良かったのだが、話している内容は今の時代鉄道など利用する人はなく、採算が取れないのは目に見えており、建設は不可能だとの主張で建設に関しての意欲が感じられなかった。どうやら、赤字必至のやっかいな第3セクターなど建設したくないのが本音だったらしい。このあたり、赤字の転換第3セクターが問題となっている昨今、AB線を引き継いで実際に開業した線区は、収支予測云々より、地元の雰囲気盛り上がり次第で決定されていったきらいがある。盛り上がらなかった線区はこのように立ち消えとなっていったのだろう。
こう未成線の再生の現場で感じるのは開業できるも、できないも地元の意欲次第だという事である。以前訪れた岩日北線の路盤を抱える山口県の錦町は、すでに出資している開業区間の錦川鉄道の経営すら危ないのに、その先の未開業区間もなんとか公共交通機関として再生できないかと模索していて、そこでは相当の熱意を感じた。地元住民の意識が高まって、自治体が腰を上げなければ第3セクターの建設はありえないのである。
JR化10年を迎え、かつての第3セクターの優等生と言われていた三陸鉄道でさえ赤字基調となり経営は厳しい。また、鉄道に限らず第3セクターによる事業の赤字が社会問題となりつつあり、マスコミをはじめとした世間の目も冷たくなってきた。しかし、住民の足としてまた地域の活性化として役に立つなら、赤字覚悟でも建設してもよいのではないだろうか。観光資源や通勤の便など付加価値が高いこの呼子線の区間は赤字覚悟でも建設すべき区間だったのではないだろうか。すでに90%以上が完成している路盤は取り壊され、その跡地は国道のバイパスになるという。投入されるのは税金である。開業寸前だった鉄道施設を壊し道路を建設する。用地の一部は買収済みとはいえ、第3セクターの赤字など消し飛ぶ程の経費がかかる道路工事がおこなわれようとしている現場は、路偏重財政という日本の体質を端的に現していた。
終
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