2015年4月19日日曜日

サヨナラ 第3回 別れ


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(三)別れ

 二年、地方都市のメゾネットでの二人の生活は、いつまでともいわず、形を変えながら続くものと思っていた。ミキとはBF5で色々な山、色々な海に言って写真に収めてきた。ミキもその間に、最初に田舎から出てきた娘のイメージはすっかり無くなり、ミキらしい、ミキなりの進化を遂げていた。
 とある日、とある事で、私はバイトに行く時に、ミキと途中まで一緒となり、バイト先の最寄り駅で別れた。そして、バイト先に入るなり、女性社員たちに質問攻めにされた。誰か見ていたようだ。

「ねぇ、ねぇ、あの娘、彼女?」

「うそー、カワイイ!」

「もったいなーい」

最後の「もったいない」という言葉に少々カチンと来たが、自分の彼女を良く言われて悪いとは思わなかった。

それくらい充実した日々を送っていただけに、それは、ショッキングな出来事として、突然やってきた。



「別れたい」



切り出した、ミキの言葉に、私は何を答えたのか、よく覚えていない、ただ、突然の別れに現実をイマイチよく理解していないようだった。

「8月にみんなで北海道へ行くでしょ。それで終わりにしたい」

更に残酷な言葉であった。別れの日を宣言されたのであった。いっそ、そこでひっぱたかれて、追い出された方が楽だったかもしれないと、今になってみれば思うが、その頃は一分一秒でも、ミキと一緒に居たいがために、その条件を飲んだ

「このまま二人、駄目になってしまうなら、別れた方がいいと思うの」

それが彼女の言葉だった。



かくしてBF5は北海道へ渡る事になった。北海道へ渡る事自体は初めてではないのであるが、車ごと渡るのは初めてであった。小樽の運河、十勝の大平原、野付半島、オホーツク、ハイライトは宗谷岬から礼文、利尻の見える丘。稚内市内のA航空のホテルを見上げ

「こんなホテルにいつかは泊まりたい」

などと思いながら、その晩は夜通し走る事にした。途中、仲間との離合集散を繰り返しながら、1週間強の旅は終わり、フェリーは新潟港に着き、名残を惜しむように、BF5は東京方面へと走った。
 ミキのメゾネットに着き、彼女の荷物を降ろし、最後に

「有難う。いい女だったでしょ?」

こみ上げる涙を我慢するのが精一杯で、

「うん・・・」

とだけ答えるだけであった。

この言葉は、生涯、身に沁みる事となった。
そう言うと、ミキはメゾネットに入り、扉を閉めた。
私は追うような事はしなかった。


それから、彼女という娘は何人かできた。しかしながら、鮮烈なミキブルーに侵されていた私は、なぜか満足できなかった。冷静に考えれば、妻とするならば、ミキ以上の娘も居た。
 車もミキとの想い出のありすぎるBF5は売り払い、代わりに改造のタネ車としてはちょうど良いBG5の中古車を手に入れた。
 ATだったBF5に対し、BG5はMT車を探して選んだ。すでに社会に出て、ある程度の資金があってか、BG5の改造に没頭した。カメラは封印された。ホイール、エアロ、車高調、ワンオフマフラー、ワンオフ前置きインタークーラー、金プロ制御。タービンこそノーマルを残したが金プロ制御で魔物のような車となった。
 ノーマルタービンながら直線だけは速かった。どこまで踏めるか、度胸だめし、命がけだった。私は荒れていた、仲間とつるみながら、深夜の高速をブッ飛ばした。やはり「湾岸ミッドナイト」、ベイエリアは好きだった。Bラインの東京港トンネルを一番右の信号の下から突っ込み、羽田空港ターミナルをぶち抜き、ベイブリッジへ。メーターの針はとんんでもない場所を指している。
 笑える事にこのBG5は北海道へ2度渡っている。オロロンラインを羽幌へ。命知らずの爆走であった。

しかし、何も埋まらない。どんな娘と付き合っても、BG5をどこへ走らせても、そこから生まれるものは皆無であった。




※この物語はフィクションです。実在の人物、団体、出来事とは一切関係ありません。

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